
カウンセリング入門 5
5.【カウンセリング理論とアプローチの種類 】
(1)力動論的アプローチ(精神分析)
力動論とは、フロイトの考案した精神分析学の流れをひくものである。フロイトは人間の心理のメカニズム(心の構造要素)を
『エス』『超自我』『自我』に分けて説明した。
エスとは、自分では意識できない性衝動や攻撃性等本能エネルギーである。
超自我とは、幼少期に形成された道徳(心)や倫理(良心)で、エスを抑える機能である。
自我とは、エスや超自我や外界の刺激からの要求を調整して、人間行動を司る機能である。
これら3つの要素は、無意識領域を含むので表面の意識だけで行動を替えることは困難である。
そのため、力動論的アプローチでは、幼少期の体験や親子関係等を分析し、
エスや超自我の葛藤をクライアントに理解させることで、問題解決を試みる。
(2)行動論的アプローチ (行動主義)
人の心の構造を仮定して、無意識からの治療を試みる力動論に対して、行動論とは、表面に現れる行動を変容させることで問題を解決することを試みる。フロイトの精神分析や無意識などの心的構造論には、“非科学的”との批判が付きまとう。
行動論では、科学的に扱えない心の中には触れず、目に見える行動を扱う科学的なアプローチである。
行動論では、クライアントの抱える問題を、幼児期からの学習と習慣によるものだと考える。外界からの刺激に対する不適切な反応を、新たな学習によって修正することで、問題はなくなる(解決する)ものと考える。
(3)体験的アプローチ (来談者中心療法)
力動論も、行動論も、問題の原因を過去に求めるものだが、体験的アプローチでは、
“クライアントの問題は現在の(体験している)状態にある”のだから、過去はさておき、今の自分に照準を合わせようと試みるものである。
体験的アプローチでは、過去は問わず現在の葛藤の正体を知ることで、クライアントの変容を促すことを目的とする。
カウンセラーは、クライアントが今の感情に気づいたり自分を肯定的に捉えたりできるように援助する。
(4)システムズ・アプローチ (家族療法)
システムとは、相互に作用し合う要素の複合体である。システムズ・アプローチは、家族を一つのシステムと見て、家族内の個人に起きた心理的な問題は、その個人ではなく、家族システムに原因があるとみなす。原因が家族の維持・発展の過程における現象であれば、家族システムを変化させてことで、個人の症状も治ると考える。家族療法では、問題を抱える人をI.P.(見なし患者 Identified Patient )と呼ぶ.
各アプローチ方法の総括
療法 研究者 対象 理論 長所 短所
精神分析 フロイド ●不適応状態の個人 ●精神分析学 診断を理解するための豊富な枠組み 行動変容への対処法がない
療法 ●心理的悩み リピドー論 ※心の構造が分かる
力動的
アプローチ 防衛機制
パーソナリティ論
コンプレックス
行動療法
行動的 ウォルヴィ ●不適応状態の個人と ●学習理論 具体的な治療目標と 実存的な悩みには不向き
アプローチ アイゼンク その不適応行動 古典的条件付け 行動変容への豊富な対処法 ・生き方
オペラント条件付け 幼児から成人までの適用可能 ・キャリア
・人間関係等の問題
来談者 ロジャーズ ●心理的悩み ●自己理論 クライアントとの人間関係が取り易い 時間が掛る
中心療法 ●青年期以上の 人間の潜在的回復力 来談者の尊重と対等関係 自己中心的な人、
知的水準を持つ人 成長力の承認 受身的過ぎる人、
●言語で表現できる人 幼児、小学生、
体験的 知的障害者には不向き
アプローチ
※家族療法 ビイトソン ●家族を持つ人 ●システム論 原因を個人に帰するのではなく システムを理解するのに、
ミニューチン 家庭内の環境に求める。 家族全員の場が必要、
成員の相互関係が明確 そのために時間がかかる。
●心理的悩みと 家族を構成する成員
システム 鈴木浩二 それに基づく症状 (要素)間の相互作用
アプローチ ・不適切行動を持つ人
※認知行動 ベック ●否定的自動思考をする人 ●認知理論X行動理論 クライアントとの共同作業 時間が掛る
療法 ●認知の歪みを持つ人 認知の歪み 構成された治療手順がある 心理教育への理解力が
もう一つの ●非合理的信念を持つ人 ・信念の非合理性を 今・現在の体験に注目する クライアントに必要
体験的 修正する うつ病の治療に最適 形式的
アプローチ 成長力の承認